特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録|書籍レビュー

特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録の表紙

2021年春、東京国立博物館にて特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」が開かれました。

鳥獣戯画全4巻とその断簡、現在は失われた場面を留める模本などが集められる本展は、開催前から非常に注目されていました。
巻物の展示ケース前に動く歩道が設置されたことからも、その期待の大きさが分かります。

その本展の展示内容を収録したのが、特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録です。
この記事では、特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録についてご紹介いたします。

特別展の終了後でも図録は購入できます!!

特別展は終了していますが、図録を購入することは可能です。
方法1:東京国立博物館の中にあるショップで購入
方法2:東京国立博物館の公式WEBサイトで購入

参考
特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて東京国立博物館ミュージアムショップ

方法3:朝日新聞社の公式WEBサイトで購入

参考
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」朝日新聞SHOP

原寸に近い大きさで鳥獣戯画を楽しめる

特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録の背表紙

本書はA4サイズ、474ページの大ボリュームです。

鳥獣戯画(正式名称:鳥獣人物戯画)は、甲・乙・丙・丁全4巻からなる絵巻です。国宝に指定されています。
ウサギやカエルなどの遊戯を描いた甲巻は、日本人なら誰でも一度は目にしたことがあるでしょう。

平安~鎌倉期の成立して以来、高山寺に伝わってきたこと以外は、筆者も制作目的もはっきりしない謎だらけの絵巻物です。

ですが、絵そのものの魅力は、今日まで多くの人々を惹きつけてきました。
酒井抱一・狩野探幽といった、何人もの高名な絵師たちによって模写されている事実が、その魅力の高さを物語っています。

特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録(以下、本書)は、そんな鳥獣戯画をさまざまな角度から考察する内容となっています。

基本的な構成は、以下の通りです。

章のタイトル 内容
第1章 国宝 鳥獣戯画のすべて 鳥獣戯画全4巻を原寸に近い大きさで紹介
第2章 鳥獣戯画の断簡と模本――失われた場面の復原 各地に残る断簡・模本を手掛かりに原初の鳥獣戯画を蘇らせる
第3章 明恵上人と高山寺 鳥獣戯画を伝える高山寺を語るうえで欠かせない明恵上人とは
【Ⅰ】 鳥獣戯画の「すべて」に迫る 鳥獣戯画に関する論文・最新研究を紹介
【Ⅱ】 明恵上人と高山寺をめぐる美術 高山寺に伝わる美術品から明恵上人の足跡をたどる

本書の約半分ほどのページを占めるのが第1章です。
第1章では、鳥獣戯画を原寸に近いA4サイズで見ることができます。

サルを追いかけるウサギとカエル

ウサギがサルを追いかけている場面。
鳥獣戯画のなかでも屈指の名シーンです。

原寸に近いからこそ、細かい筆づかいまで見ることができます。
鳥獣戯画を隅々まで楽しめるのが、本書の魅力です。

鳥獣戯画の元の姿を知ることができる

鳥獣戯画の一部は、長い歴史のなかで失われてしまいました。
そのため、現存する絵巻だけでは鳥獣戯画の元の姿を知ることはできません。

しかし、失われた部分の断簡のうち、一部は掛け軸に仕立てられて残っています。
本書では、それらの断簡についても解説付きで紹介しています。

鳥獣戯画の断簡

鳥獣戯画の断簡。
断簡は甲巻から分かれたものがほとんどです。

さらに、各絵師による模本も貴重な手掛かりです。
かつて修復した際に順序が入れ替わってしまった箇所を元に戻し、断簡を挿入し、原本が失われている部分を模本で補うことで、鳥獣戯画の元の姿を再現しています。

復原された鳥獣戯画の甲巻

鳥獣戯画甲巻を復原したもの。
復原後の鳥獣戯画は、まさに「鳥獣戯画のすべて」といえるでしょう。

このように、本書では鳥獣戯画全4巻に加え、断簡・模本までを網羅しています。

本書1冊で、鳥獣戯画の全貌を知ることが可能です。

鳥獣戯画に見え隠れする真の意味を探求できる

鳥獣戯画は非常に人気の高い絵巻物であるにもかかわらず、筆者・成立背景・主題などが謎に包まれています。
それは、根拠となる文字史料に乏しいからです。

そこで、多くの専門家の方々が、さまざまな角度から研究を進めてきました。
明治以降に発表された鳥獣戯画に関する論文は、200本以上にものぼります。(本書より)

本書では、以下の4つの視点で最新の研究がまとめられています。

  1. 鳥獣戯画研究のこれまでとこれから
  2. 何が、どのように描かれているのか――図様と表現の特質
  3. 誰が描いたのか――絵師をめぐる議論
  4. 何のために描かれたのか――主題と制作背景を探る

2は技法からのアプローチ、4は描かれている内容からのアプローチです。

特に4が非常に興味深く、なぜ甲巻はウサギ・カエル・サルを中心に描いているのか、なぜ甲巻と乙巻で登場する動物の種類が分かれているのか、といった疑問に対し、考えうる答えを提示しています。

これらの研究を読むと、鳥獣戯画が単なるマンガや風刺画などではないことが明確に分かります。

「鳥獣戯画には、何らかの意味が隠されている」

このことを知ってから、あらためて絵巻の写真が載っているページに戻ると、鳥獣戯画のまた違った姿が見えてくるかもしれません。

高山寺と明恵上人についても詳細に解説

明恵上人坐像とその解説

明恵上人坐像は、通常だと年2回しか見られない貴重な宝物です。
重要文化財に指定されているこの像は、本展で公開されています。

本書には、高山寺(こうさんじ)と明恵上人(みょうえしょうにん)ゆかりの宝物についても触れられています。

明恵上人とは高山寺を再興した方です。
その高山寺には、鳥獣戯画をはじめ数多くの宝物が伝わっています。

特に、春日権現験記絵(かすがごんげんげんきえ)は、明恵上人の人となりを知るうえで貴重な史料です。

春日権現験記絵の一部

明恵上人が登場する春日権現験記絵。
インドに憧れる明恵上人の在りし日の姿が描かれています。

すでに述べた通り、鳥獣戯画は制作背景などが分かっていません。
だからこそ、鳥獣戯画と関わりの深い高山寺と明恵上人から、鳥獣戯画の新たな一面を知る手掛かりを探すことは有意義といえるでしょう。

まとめ

相撲でカエルに投げ飛ばされるウサギ

相撲でカエルがウサギを投げ飛ばすシーン。
筆者はこの絵柄のトートバッグも本書と同時に購入しました。

この記事では、特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」図録についてご紹介いたしました。

鳥獣戯画は謎に包まれた絵巻です。
しかし、何らかの意図をもって制作されたことは確実でしょう。

本書に掲載されている論文をご覧いただければ、鳥獣戯画を単なるマンガや風刺画と捉えるべきではないと分かるはずです。

ただ、鳥獣戯画は何も考えずに見るだけでも面白いものです。
愛らしいウサギやカエル、サルたちが私たちの心をつかみ続けてきたからこそ、鳥獣戯画は今日まで大切に伝えられてきました。

鳥獣戯画を客観的に考察することも、主観的に観賞することも、どちらも間違いではありません。
本書の魅力は、鳥獣戯画を2つの楽しみ方で味わえる点にあるといえます。


参考
特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて東京国立博物館ミュージアムショップ


参考
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」朝日新聞SHOP

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