桃李言わざれども下自ずから蹊を成す|ことばと漢字の詳細解説

桃李言わざれども下自ずから蹊を成す

本記事では、「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」(とうりいわざれども したおのずからみちをなす)を取り上げます。

この故事成語は、「桃李成蹊」(とうりせいけい)という四字熟語としても有名で、人の清廉な性格を表す場合などに使われます。
そのため、この故事成語に因んで付けられた大学名や人物名も存在します。

そこで、この故事成語について、言葉の意味や使われている単語・漢字などを詳細に解説いたします。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」の意味

徳のある人のもとには、黙っていても自然と人が集まってくるものだという意味です。

桃や李(すもも)は、美しい花や美味しい実をつける植物です。その花や実を求めて動物が集まるので、やがて桃李の下には自然と道ができます。
この故事成語では、徳のある人物を「桃李」に見立て、人が集まるさまを「道ができるほどだ」と表現しています。

また、この故事成語からは「自分が誰からも慕われるほど高潔な人物であれば、自然と優れた人材に恵まれるようになる」といった教えを導き出すことができるため、人の上に立つ者の心構えとして使われる場合もあります。

なお、原文は漢文なので、書き下し文(日本語の読みに直した文)は一定ではありません。
そのため、「言」を「ものいう」、「蹊」を「こみち」と訓じ、「とうりものいわざれども したおのずからこみちをなす」などと読む場合もあります。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」の出典

諺曰桃李不言下自成蹊此言雖小可以喩大

『史記』李広伝賛から抜粋した一節。

司馬遷(しばせん、前145?~前86?)がみずからの著書『史記』のなかで、前漢の武将である李広(りこう、?~前119年)の清廉さを讃えた言葉です。

李広は、匈奴(きょうど、モンゴル高原で一大勢力を築いた異民族)の討伐において功を立て、匈奴から「飛将軍」と恐れられたほどの猛将です。
一方でその人柄は極めて高潔で、飲食の際は自分よりも部下を優先させ、みずからが恩賞を受けた際は部下に褒美を分け与えたほどでした。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」の類義語

  • 李広成蹊(りこうせいけい)

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」は、李広を讃えた言葉です。そのため、「李広成蹊」の四字熟語で表される場合もあります。
「李広成蹊」の意味は「桃李成蹊」と同じです。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」に使われている単語と漢字

「桃李(とうり)」の解説

「桃李(とうり)」とは、モモ(桃)とスモモ(李)のことです。
ともに中国原産のバラ科の果物で、日本においても『万葉集』に登場するほど古い時代から栽培されていました。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」では、誰からも慕われる徳のある人物を、動物が好んで食べる美味しい桃・李に喩えています。

なお、優秀な門下生が多く集まることを「桃李門に満つ」(とうりもんにみつ)といいます。
このように、「桃李」は将来有望な人材の喩えとしても使われることがあります。

漢字「桃」の成り立ち

「桃」(トウ)の部首は木、画数は10画。会意兼形声文字で「木+[音符:チョウ]兆(二つに割れるさま)」から成り立っています。
その実が二つに割れるモモの木を表しています。

なお、「兆」は亀甲や獣骨がパンとひび割れたさまを描いた象形文字です。そのひび割れの形状によって占うことから、「きざし」の意味が生まれました。

漢字「李」の成り立ち

「李」(リ)の部首は木、画数は7画。会意文字で「木+子(み、みがなる)」から成り立っています。
果物のたくさんなる木を表し、スモモを意味します。

「李」は中華圏で代表的な姓の一つ

「李」は李広将軍やその祖先といわれる李信(秦の武将)、子孫と伝えられる李白(唐の詩人)に代表されるように、中華圏において非常によく見られる姓です。中国では人口の多い五大姓(王・李・張・劉・陳)の一つに数えられています。
それほどまでに李姓が広まったのは、中国では唐(618年~907年)をはじめ複数の王朝で「李」が国姓(君主の姓)となり、積極的に広められた歴史があるからだと考えられています。

参考
李氏Wikipedia


参考
東アジアにおける有力姓氏とその発生要因IRDB

「李」を含む他の言葉
  • 李下(りか)に冠(かんむり)を正さず……疑われるような言動は避けるべき

「蹊(みち)」の解説

「蹊」とは、小道(こみち)のことを指します。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」において、「蹊を成す」は徳の高さを表しています。

漢字「蹊」の成り立ち

「蹊」(ケイ)の部首は足、画数は17画。会意兼形声文字で「足+[音符:ケイ]奚(ひも、ひものように細い)」から成り立ち、細い小道のことを表します。
訓読みは、「みち」または「こみち」です。

「奚」(ケイ)の部首は大、画数は10画。会意文字で「爪(て)+糸(ひも)+大(ひと)」から成り立ち、縄で結ばれて働かされる奴隷、転じて召使いを意味するようになりました。訓読みは「しもべ」です。
なお、「奚」には「細いひも」「縄でつながれる」などの意があります。「細いひも」の意は「蹊」や「渓」の旧字に含まれ、「縄でつながれる」の意は「鶏」の旧字に含まれています。

爪(て)+糸(ひも)+大(ひと)⇒奚(細いひも)
足+奚⇒蹊(細い小道)

まとめ

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」は、経営者や管理職の方なら知っておくべき含蓄のある言葉です。

そのため、故事成語のなかでも使われる頻度は高めだと考えられます。

本記事が、皆様にとって記憶の定着に役立てば幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA