この記事では、「羹に懲りて膾を吹く」(あつものにこりてなますをふく)を取り上げます。
「羹に懲りて膾を吹く」は、漢字検定や日本語検定などでも出題される可能性があります。
そこで、この故事成語について、言葉の意味や使われている単語を詳細に解説いたします。
「羹に懲りて膾を吹く」の意味
一度経験した失敗から、必要以上に警戒するようになること、意味のない用心のことを指します。
皮肉的なニュアンスを持つので、使うときには注意が必要です。
熱い吸い物で口を火傷してしまい、冷たい料理まで吹き冷まして食べようになったという故事に由来します。(出典:楚辞)
「羹に懲りて膾を吹く」の出典
出典は『楚辞』九章・惜誦です。
『楚辞』は、中国戦国時代の楚において生まれた歌謡集です。
なお、詩では「膾」ではなく「韲」(なます、あえものの意)の異体字が使われています。
「羹に懲りて膾を吹く」の類義語
- 羹に懲りたる者韲(あえ)を吹く
- 蛇に噛まれて朽ち縄に怖(お)じる
「羹に懲りて膾を吹く」に使われている単語
羹(あつもの)の解説
羹(あつもの)とは、肉や野菜を入れて煮た、熱い吸い物のことを指します。
この故事成語では、「口が火傷してしまうほど、熱い食べ物」といった意味で使われています。
羹(あつもの)の語源・由来
「あつ(熱)+もの(物)」と考えられています。
平安時代の日本においても、熱い汁物のことを指しました。
漢字「羹」の成り立ち
羹(コウ)の部首は羊、画数は19画。会意文字で「羔(こひつじ)+美(おいしい)」から成り立ちます。肉や野菜を入れて煮た吸い物を意味します。
羔(コウ)の部首は羊、画数は10画。会意文字で「羊+火(れんが)」から成り、まる煮するのにちょうどよい子羊のことを指します。
羔(こひつじ)+美(おいしい)⇒羹(肉や野菜の吸い物)
「羹」を含む他の言葉
- 羊羹(ようかん)……和菓子の一種
- 蓴羹鱸膾(じゅんこうろかい)……故郷を懐かしく思う気持ち
膾(なます)の解説
膾(なます)とは、生の肉を細く切って取り合わせた古代中国の食べ物です。
この故事成語では、「火傷などするわけのない、もともと冷めている食べ物」といった意味で使われています。
膾(なます)の語源・由来
「なま(生)+しし(肉・宍)」が転じた言葉と考えられています。
古語の「しし」は「肉が食用となる獣」を意味し、特に猪や鹿を指しました。
「いのしし」は「猪(い)の肉(しし)」であり、もともとは「食肉として見た場合の猪」という意味です。
なお、この故事成語が生まれた当時の中国・春秋戦国時代の「なます(膾・鱠)」は、生肉や生魚を細かく刻んだ食べ物でした。
生肉を使ったものを「膾」、生魚を使ったものを「鱠」と使い分けていました。
現代の日本に伝わる酢の物の「なます」もルーツは同じですが、日本で独自の変化を遂げたものであり、実質的には別の食べ物です。
参考
紀元前から愛される酢の物「なます」は、元々は肉料理だった!ぐるすぐり
漢字「膾」の成り立ち
膾(カイ)の部首は月(にくづき)、画数は17画。会意兼形声文字で「月(肉)+[音符・カイ]會(取り合わせる)」から成り立ちます。生の肉を細く切って、彩りよく取り合わせたものを指します。
會(=会、カイ)の部首は人、画数は13画。会意文字で「△(合わせるしるし)+増の旧字の略体」で「あわせてふやす」という意味を持ちます。
なお、上記の通り古代中国では生肉を使ったものを「膾」、生魚を使ったものを「鱠」と使い分けていて、この故事成語では「膾」の字を使います。
月(肉)+會(取り合わせる)⇒膾(生肉を取り合わせた食べ物)
「膾」を含む他の言葉
- 膾に叩く(なますにたたく)……大勢で人をめった打ちにすること
- 人口に膾炙す(じんこうにかいしゃす)……広くもてはやされること
まとめ
「羹に懲りて膾を吹く」は、漢字検定1級で出題される可能性がある故事成語です。
しかし、使われている漢字は難しいとはいえ、一般常識として知っておきたい言葉です。
文章の表現力を高めるためにも、ぜひ押さえておきましょう。