堀井令以知著『語源をつきとめる』|書籍レビュー

堀井令以知著『語源をつきとめる』の表紙

この記事では、堀井令以知(ほりい・れいいち、1925~2013)先生の著書、『語源をつきとめる』(以下、本書)についてご紹介いたします。

語源の調べ方が分かる

堀井先生は、日本語学者・言語学者で関西外国語大学の名誉教授を務めていらっしゃった方です。
語源大辞典(東京堂出版)など、辞書の編集にも携わりました。

本書『語源をつきとめる』は1990年に発行された新書で、200ページあります。
語源研究の方法論について、具体例を多く交えながら紹介する内容となっていて、これから日本語の語源を調べてみようと考えている方にお勧めしたい一冊です。

本書の基本的な構成は以下の通りです。

1章 語源研究を妨げる漢字
2章 語源を探る方法と条件
3章 意味のつながりをたどる
4章 単語家族をつきとめる
5章 方言比較で語源を探る
6章 擬声語・擬態語の語源
7章 語源のフォークロア

本書の核といえるのは2章の「語源を探る方法と条件」5章の「方言比較で語源を探る」の2つでしょう。

2章では、英語やフランス語といった、語源研究が進んでいる外国語の研究手法を紹介しながらも、日本語の場合は同じようなアプローチが難しいことを伝えています。
5章では、日本語の場合は、方言比較こそが最も有効な研究手法であると説いています。

日本語の特殊性を直視し、問題解決の糸口を明確に示す内容となっています。

語源研究における注意点が分かる

日本語における語源の解明に向けては、多くの先人たちが挑みました。
その結果、多くの語源説が生まれています。
『日本国語大辞典』(小学館)をのぞいてみると、10個以上の語源説が存在する言葉もざらにあります。

しかし、堀井先生は先人が主張した語源説の多くを否定しています。
根拠のない伝承やこじつけが少なくないためです。
事実、明らかに漢字の意味に引きずられ、和語としての成り立ちを無視したような語源説も見られます。

○アンバイ(塩梅)の語源説(本書より)
誤った語源説:塩と梅酢で味を付けるから
正しい語源説:「間」という意味に近い和語「アワイ」から

先人の唱えた語源説に懐疑的な堀井先生ですが、民俗学者であった柳田國男(やなぎた・くにお、1875~1962)などの言語説については例外です。
民俗学的な裏付けがなされていれば、考慮に値すると考えます。

このように、歴史的・文化史的な背景に根拠を求めるのが堀井先生のスタンスです。
そのうえで、研究手法としては方言比較を用いるべきと主張しています。

言語学の基礎知識があることを前提に書かれている

本書を読み進めていると、「上代」(上代日本語)や「中古」(中古日本語)といった用語が出現します。

上代日本語は奈良時代以前に使われていた言葉です。音を表すために漢字を借用した、万葉仮名が用いられていました。
中古日本語は平安時代中期に成立した、現代日本語の基礎となった言葉を指します。源氏物語などは使われている日本語が該当します。

これらの用語は日本の言語学に触れたことのある方には馴染みがあるでしょうが、一般的に知られているとはいえません。

また、万葉仮名を説明する場面では「甲類」「乙類」という表記が見られますが、これは中古日本語以降には見られない、上代日本語の音の区別を表します。

たとえば、上代日本語では「キ」が2種類ありました。
この2種類は万葉仮名で明確に書き分けられていたため、言語学では「キ甲類」「キ乙類」といったように区分しています。

このように、言語学の知識がないと意味を理解できないであろう部分は見られます。

ですが、全体的には一般向けの内容になっているので、ご安心ください。

まとめ

堀井令以知著『語源をつきとめる』の裏表紙

堀井令以知著『語源をつきとめる』の裏表紙。

この記事では堀井令以知先生の『語源をつきとめる』について、ご紹介いたしました。

本書は、これから言語学を学びたいと考える方にお勧めの内容となっています。
図書館などで見かけた際は、ぜひ手にとってご覧ください。

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