誰に対しても説得力のある文章を書くためには、正しい文法や言い回しを熟知していなければなりません。
言葉が間違っていると、それだけで伝える情報の信憑性を疑われてしまいかねないからです。
したがって、書き手は情報の質と同じくらい文章の正確さを求める必要があります。
そこでお勧めしたいのが日本語検定の公式テキストです。
なぜなら、正しい文法や言い回しにおいて、学説による偏りが最も少ない書籍だと考えられるからです。
日本語検定は文部科学省が後押ししている資格なだけに、内容の信頼性や公平性が高いと考えられます。
この記事では、『日本語検定公式テキスト・例題集「日本語」上級 増補改訂版』(東京書籍)についてご紹介いたします。
本書の主な対象は日本語検定1級・2級の受検者
『日本語検定公式テキスト・例題集 「日本語」上級 増補改訂版』(以下、本書)は、日本語検定委員会が発行している唯一の公式テキストです。
日本語検定の1級(社会人上級レベル)・2級(大学卒業レベル~社会人中級レベル)を対象としています。
同じシリーズとして3級・4級用の「中級」、5級・6級・7級用の「初級」もありますが、社会人なら「上級」をご覧になるだけで十分でしょう。
(ちなみに、3級の難易度は「高校卒業レベル~社会人基礎レベル」です)
本書はA5判で195ページと、持ち運びに便利にサイズです。
日本語検定の試験範囲である敬語・文法・語彙・言葉の意味・表記・漢字の6分野について一通り解説しています。
以下は、各分野について内容の一部を抜粋した一覧です。
敬語 | 敬語の5分類、敬語の形と使い方 |
---|---|
文法 | 品詞、語順と係り受け、誤用 |
語彙 | 類義・対義関係、和語・漢語・外来語 |
言葉の意味 | 言葉の使い分け、ことわざ・四字熟語 |
表記 | 現代仮名遣い、送り仮名 |
漢字 | 異字同音、類似字形の漢字の使い分け |
なお、本書を一冊完全にマスターしても、日本語検定の1級や2級の合格ラインには遠く及ばないでしょう。
語彙・言葉の意味・漢字の掲載数が少なく、試験対策としては不十分だからです。
本のタイトルには「例題集」と書いてありますが、問題数についてはあまり期待しない方が無難です。
なので、本気で日本語検定1級・2級の合格を目指したい方は、別売りの問題集なども併せてご活用ください。
敬語の新しい考え方「5分類」について解説している
本書は敬語と文法の解説が充実しています。
特に敬語については、従来用いられてきた3分類ではなく、5分類を用いて解説されているのが特徴的です。
敬語の5分類については、文化庁が指針を示しています。(文化庁の公式サイトより)
○敬語の5分類一覧
- 尊敬語
- 謙譲語Ⅰ
- 謙譲語Ⅱ
- 丁寧語
- 美化語
謙譲語についてⅠとⅡの区分が設けられた理由は、謙譲語は「敬意を示す対象が誰なのか?」という観点で2種類に分かれるからです。
たとえば、「伺う」であれば、「動作が向かう先」(訪問先の人物)が敬意の対象となります。
⇒先生に敬意を示しているので、正しい表現。
ところが、敬意の対象が「動作が向かう先」ではなく「聞き手」であるときは、「伺う」を使えないケースがあります。
⇒身内を立てることになるので、誤った表現。
そこで、「伺う」を「参る」に変えてみましょう。
すると、敬意の対象が「動作が向かう先」から「聞き手」へと移ります。
⇒敬意の対象が「聞き手」になるので、正しい表現。
上記の場合、「伺う」が謙譲語Ⅰ、「参る」が謙譲語Ⅱに当たります。
このように、敬語の新しい考え方である5分類について、本書は詳しく解説しているのが特徴です。
謙譲語に詳しくなることで二重敬語の判断精度も上がる
謙譲語ⅠとⅡが使い分けられると、表現が二重敬語に当たるかどうかの判断もしやすくなります。
二重敬語とは、一語に同じ種類の敬語を付けることを指します。
⇒「お話しになる」(尊敬語)+「れる」(尊敬語)なので、二重敬語となる。
※「先生がお話しになっていらっしゃる」であれば、「お話しになる」と「いらっしゃる」の二語が連結しているだけなので二重敬語には当たらない。
問題は、次のように謙譲語のⅠとⅡが混在する場合です。
敬語の5分類の考え方がなければ、二重敬語だと判断されかねないケースです。
⇒「お伺いする」(謙譲語Ⅰ)+「いたす」(謙譲語Ⅱ)+「ます」(丁寧語)で二重敬語に当たらない。
このように、二重敬語の判断には謙譲語Ⅰ・Ⅱの区別が重要な役割を果たします。
本書をお読みいただければ、敬語の5分類の考え方を通して二重敬語の判断もしやすくなります。
まとめ
この記事では、『日本語検定公式テキスト・例題集 「日本語」上級 増補改訂版』(東京書籍)について、特に敬語に絞ってご紹介いたしました。
本書の対象者は、必ずしも日本語検定の受検者に限定されません。
説得力のある文章を書きたい方であれば、ぜひお読みいただきたい一冊です。
文章を書くためには、基礎固めが欠かせません。
本書の内容は、きっと基礎固めの一助になることでしょう。