「つま(妻)」は端や爪と深く関係している|辞書から語源を探ろう

「つま(妻)」の原義や語源とは

結婚した女性には、さまざま呼び方があります。
メジャーなところでは、「よめ(嫁)」「奧さん」「女房」などが挙がるでしょう。

公式の場では「つま(妻)」という呼び方が一般的ですが、この言葉の語源は何でしょうか?

この記事では、和語「つま」の語源について『日本国語大辞典』(小学館)を中心に考察してみたいと思います。

『日本国語大辞典』にある「つま(妻)」の語源説を見てみよう

最初に『日本国語大辞典』に載っている語源説を確認してみましょう。
『日本国語大辞典』には、古い文献で唱えられている語源説がまとめられています。

「つま(妻)」は「つまや」に由来する?

「つま(妻・夫)」の項目には、語源説が14個のグループに分けられて記載されています。

各グループの説を1つずつ簡潔に示すと、下記のようになります。

  1. ツレミ(連身)の略転
  2. ツは粘着の義、マはミ(身)の転
  3. ツヅキマトハルの義
  4. ムツマジの略
  5. ヲトメの転
  6. ツマヤに住む人妻のもとに夫が通う風習から
  7. ツラナリテマコトヲナスの義
  8. 左右のツマを合わせて着る衣から
  9. ツレメまたはツレヲミナ(連女)の義
  10. トクマタ(解俣)の反
  11. ツマ(交)の義
  12. ツム(着身)の義
  13. トモムカ(ともに向かい合う)の約転
  14. タマ(玉)またはトモ(友)の転

「つま」の語源は特定されていません。

ただし、上記の6番目にある「ツマヤに住む人妻のもとに夫が通う風習から」に由来する説が最有力だと思われます。
この説の通り、古代から平安時代までは妻問婚(つまどいこん)の婚姻形態が一般的だったため、「つまや」に住む人を「つま」と呼ぶようになった、と考えるのが最も自然だからです。

なお、「つまや」を漢字で書くと「妻屋」となります。
ですが、妻が住んだ建物だから妻屋、というわけではありません。上記の語源説を採る場合、先にあるのは妻屋の方です。

漢字は誤った語源説を生む原因となりやすいので、注意してください。

「つまや」は「はじにある建物」の意

では、この「つまや」の「つま」とは何でしょうか?
手がかりとなるのは、同音異義語です。

まず、建物の面のうち、棟が直角に交わる側(家の側面)を妻側といいます。
妻入り、切妻屋根などの「つま(妻)」は、妻側のことです。

妻側と平側の説明

家の側面は「妻側」といいます。
なお、棟に平行な側は「平側」です。

また、刺身の脇に添える野菜のことを「つま」と呼びます。

このように、「つま」という言葉は、しばしば人間の女性以外に対しても使われます。

実は、『日本国語大辞典』における「つま(妻・夫)」の項の冒頭には、以下の一文が添えられています。

「つま(端)」と同じく、本体・中心からみて他端のもの、相対する位置のものの意で、人間関係では配偶者をいう

つまり、「つま」の原義は「はじ・へり、一端」なのです。

したがって、「メインの建物から見て、はじにある建物」を「つまや」と呼ぶようになり、その建物に住む人を「端の人」という意味で「つま」と呼ぶようになったと考えられます。

「つま」は夫のことも指す言葉だった

しかし、「つま」の語源を「つまや」だと断定できない理由もあります。
なぜなら、古語の「つま」は男性を指す場合もあったからです。

その証拠に、『古事記』に以下のような一節があります。

我(あ)はもよ 女(め)にしあれば 汝(な)を除(き)て 男(を)は無し 汝を除て 夫(つま)は無し
※「夫(つま)」の部分は、実際の『古事記』には万葉仮名で「都麻」と記されています。

参考
古事記ビューアー國學院大學

上記は、須勢理毘売命(すせりびめのみこと)が「私は女ですから、あなたを除いて男はいません。あなたを除いて夫はいません」と詠んだ歌の一節です。

この歌からは、「つま」とは男女の一方から見た相手の呼び方であることが分かります。

ところが、「つまや」にいる「つま」は女性に限定されます。
既に述べた通り、妻問婚は女性の住む「つまや」を男性が訪れる婚姻形態だからです。
このことから、「つまや」を語源とする説に対しては、なぜ男性をも「つま」と呼ぶようになったのか疑問が生じます。

そのため、和語「つま」の原義「はじ・へり、一端」から直接「つま(妻・夫)」という言葉が生まれた、と考える方が無理がないかもしれません。

漢字で妻・端・爪と書く「つま」は同じ語源

和語「つま」の原義が「はじ・へり、一端」であることが分かれば、夫婦・建物・刺身などの「つま」はすべて同じ語源なのだと分かります。

ちなみに、「つま」を母体として生まれた言葉は、他にもいろいろと存在します。
それを、まとめてみたのが下表です。

かな表記 漢字表記 備考
つま 端・褄 「褄」は衣服の裾の両端
つま 妻・夫
つむ 摘む・抓む
つまむ 摘む・抓む
つめ 「つま(爪)」の母音交代
つまずく(つまづく) 躓く 「つま(爪)+つく(突く・衝く)」より
つねる 抓る 「つめる(抓る)」より
つめたい 冷たい 「つめいたし(爪痛し)」より

「つめ(爪)」も指のはじ・へり(指先)という意味なので、「つま(端)」と同じ語源だと考えられています。
「つま」が元の形で、のちにa音がe音に母音交代(tuma→tume)して「つめ」となりました。(大野晋先生の説)
「つまさき(爪先)」「つまはじき(爪弾き)」などの複合語のなかに、「つま」の音が保存されています。

また、「つまむ(摘む)」「つねる(抓る)」などは、「つめ(爪)」が動詞化した単語だと思われます。

このように、「はじ・へり、一端」を意味する「つま」からは、多くの単語が派生しました。
漢字で妻・端・爪と書く「つま・つめ」は、親類のような関係にあるといえるでしょう。

まとめ

この記事では、「つま(妻)」の語源について考察しました。

「つま(妻)」の考察をまとめると、以下の通りです。

  • 「つまや」に住む人を「つま」と呼んだ可能性がある
  • 「つま」の原義は「はじ・へり、一端」
  • 「つま(端)」「つめ(爪)」などは同語源と考えられる

平塚らいてうは「元始、女性は太陽であった」という有名な言葉を残しています。

主人あっての「つま(妻)」は、太陽がなければ輝くことのできない「月」という表現と重なって見えてしまいます。

「つま(妻)」からその原義が完全に失われる時代は、果たして来るのでしょうか?

2 COMMENTS

小笠原資子

平塚らいてうは「元始、女性は太陽であった」という有名な言葉を残しています。

主人あっての「つま(妻)」は、太陽がなければ輝くことのできない「月」という表現と重なって見えてしまいます。

「つま(妻)」からその原義が完全に失われる時代は、果たして来るのでしょうか?

この文章の意味が理解できません。
教えて欲しいです。

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ながひらコウ

コメントありがとうございます。

そちらの文章の意味は、「日本における女性の地位が、世界標準に届く時代は来るのか?」です。
「つま」の原義を“中心”から見た“はじ”であると考えたとき、その原義が現代日本語の「妻(つま)」にも受け継がれているように思えました。

当サイトはジェンダーの問題を取り上げる場所ではございませんが、この記事では私の感想をそのまま結びに致しました。

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